旧制八尾中学・府立八尾高等学校同窓会東京支部

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(騎馬戦の写真 : 八尾高パンフレットより)


高4期 播磨益夫氏 (元・参議院法制局第3部長 現・東京リーガルマインド大学 特任教授 弁護士)






略歴
 
昭和8年生まれ。大阪大学卒業。
国家公務員6級職(現・T種)法律職試験と司法試験に合格,法務省に勤務。
その後、参議院法制局第5、第4、第3部長を経て、
参議院法務委員会調査室長(特別職)を歴任。
平成6年退官後、弁護士。日本弁護士連合会司法制度調査会特別委嘱委員。


旧制中学、新制高校を含め法曹界に進まれた先輩は数少ないが、それぞれに素晴らしい活躍を
しておられるという。中で播磨先輩は、国民全体に大きな影響を与える「立法」の仕事に長年たずさわり、
私たちに直接関係深い法律の数々を立案してこられた。法律を生み出すお仕事の苦労や歓びと、
八尾高の思い出をお話し頂いた。

〜片手にラケット、片手に憲法〜

【八尾高時代


― どんな生徒でしたか?―

8人兄姉弟妹の5番目で、今、残っているのは6人ですが、上下両方に挟まれて、
おとなしい方でした。学校でも、おっとりしていたと思います。




―部活は何を?―

*写真はクリックすると拡大します。

ひょんなきっかけから誘われて、庭球(硬式テニス)部に入りました。
丁度、学制が変わる時期で、併設中学3年と新制高校1年の2年間
は後輩が入ってきませんから、いつも上級生のボールボーイを
やらされて、自分の練習は夕方遅くなってから。
最初40人以上入ったのが最後には6人になってしまいましたが、
卒業まで頑張って、3年の時には、全国高校団体テニス選手権で
全国2位になりました。
ボールボーイの経験も勉強になったと思いますね。

昭和24年、前列右端がボールボーイ時代の播磨さん  
田中泰三部長(前列中央)が全国選手権シングルス優勝時
(八尾高100年史より)


八尾高卒業後もテニスは継続し、 昭和53年54年の
毎日テニス選手権シングルスではベスト4になり、
その結果、両年全日本テニス選手権に出場しました。
今も、短時間ナイターも含め、年間120日はテニスを
していて、お陰でとても健康ですよ。



―印象に残ってる先生は?―

化学の魚谷日出男先生です。
当時、化学の授業は、私語をする生徒もいてざわざわしていたの
ですが、先生は、いつもとても丁寧に授業をしてくださった。
聴いているのは、一番前の席に座っている私と崎山文夫君 (後に阪大理学部教授)の2人だけ。

卒業のとき、先生は「君たち2人が聴いてくれたから授業をやる気が 出せたのだよ」とおっしゃった。 私は普通に勉強していただけなのにと、とても驚きましたね。


― 阪大法学部に進まれたのは?―

テニスに熱中しながらも、何となく法律というものに魅力を感じていたので、部活の先輩からテニスの
盛んな大学に勧誘されたのを、法律の勉強がしたいのでと断って。
でも、後押ししてくれたのは、同じテニス仲間の望月隆昭君で、彼は実家を継いでお医者さんになるために
阪大医学部を受験するから、大学で一緒にテニスをしようよと。
阪大でも望月君と一緒にテニス部に入りました。 友達にも恵まれていましたね。




【法務省に入省後


いろんな部署で活躍されましたが ・・・―


法務省の民事局にいて主に実務に携わっていましたが、参議院法制局に出向し、(後に内閣法制局長官になられた)上司が残るように言ってくださって、3年のつもりが、ずっと、全省庁に亘る法律作りに関わることになりました。


どんな法律に関わってこられましたか?

時期が早すぎて当時は日の目を見なかったけれど、後に成立した法律の骨子を作ったものとしては、
「犯罪被害者給付法」「育児休業法」等があります。実際に成立した大きな法律は、参議院の比例代表制選挙に関する法律で、これに関しては大変思い出深い出来事がありました。


法律を作るうえで一番大切なことは

それはなんといっても憲法です。
どんな条約、法律も日本国憲法に違反していてはいけないのですから。
法律の立案には、一言一句、句読点に至るまで、細心の注意を払って臨みます。
それと、日本の国情に合うということが大切です。諸外国の例も研究した上で、
日本に一番適した形の法律を考えることが必要です。


裁判員制度に関して一言

これは、なかなか難しい問題がありますね。まず、憲法に違反していないかどうかということと、
実際にうまく運用されるかどうか、数年後にはハッキリするのではないでしょうか。

(以上・播磨氏談、以下はご本人の原文のまま)


法律が憲法に違反していた例(体験1)

〜国籍法と憲法違反〜

一昨年、平成19年7月号の「法律時報」で、私は、国籍法の一部が憲法違反であることを、
詳細に根拠を示して指摘した。

その内容は、要約、「日本人男性と外国人女性の間に生まれた子を日本人男性が認知し、 且つ、日本人男性と外国人女性が婚姻した場合は、その子は日本国籍を取得するが、 両親(日本人男性と外国人女性)が婚姻しない場合は、その子は日本国籍を取得できない。
これは、法の下の平等を定める憲法に違反する」というものである。

最高裁大法廷は、この指摘を全面的に認めて、昨年・平成20年6月4日、国籍法の一部(国籍法第3条「婚姻要求」規定)が憲法違反であると判決した。 憲法違反の判決としては、戦後60余年で、内容的に6本目の違憲判決となる。

この判決を報じた新聞・テレビなどのマスコミ報道によれば、5万人以上の 「子」が救われて日本人になれる、とのことである。
したがって、これらの子が日本国籍がないことからの最悪の場合の 「国外追放」を防ぐことができたことを幸いに思っている。
なお、昨年12月5日、この大法廷判決に基づき、国会で国籍法が改正された。

(平成20年12月5日朝日新聞夕刊記事)

憲法違反を免れた例(体験2)

〜立法と憲法違反防止(立法の裏話)〜


これは、昭和55年〜昭和57年当時、参議院法制局の担当課長として、初めての日本への拘束名簿式比例代表選挙制度導入に参画したときの話である。
拘束名簿式比例代表選挙制度とは、政党が提出する(参議院議員の)候補者名簿を対象にして国民が
『政党名』を書いて投票する全く新しい選挙制度である。新「比例区」選挙制度である。
これは、従前の参議院の「全国区」選挙の個人名を書いて投票する制度に代わる制度である。
なお、「地方区」の選挙制度はそのままである。
ただし、現在の名称は、「地方区」選挙ではなく「選挙区」選挙となっている。

ここで書こうとする問題は、拘束名簿式比例代表選挙制度を導入するための立法(公職選挙法の
一部を改正する法律案)作業中に突如として発生した憲法違反問題である。
そして問題とするのは、投票方法である。
政党名投票の「比例区」選挙は、従前の「全国区」選挙の個人名投票に代わるものであり、
当然のことながら、『一票』の政党名投票をすることにしていた。
そして、「地方区」は、従前通りに候補者個人に対する『一票』の個人名投票である。
即ち、参議院選挙は『二票』の投票制度である。

ところが、ある日突如、田中角栄元首相の意向として、参議院法制局長に対して、

   「地方区」(現在の「選挙区」)選挙の候補者に投ぜられた『一票』を、
   当該候補者が所属する「比例区」の政党への一票投票としても
   計算する選挙制度にすること。 そして、「比例区」投票そのものは廃止


という指示が担当議員から有り、参議院法制局長は、田中角栄元首相の意向・威光を恐れてか、
即承諾して担当課長の私に「その方向で」立法作業するように指示した。
要するに、『二票』の投票制度を廃止して、参議院選挙を『一票』の投票制度にしようとするものである。

驚いたことに、翌日・昭和56年2月6日の朝日新聞朝刊の一面トップ記事は、「参議院選挙は『一票制』に決定」と報じた。

私は、一票制は異なる選挙基準に基づく二つの選挙を一票で行おうとするもので、少数政党に極めて不利な制度であり、正確な民意反映ができず、到底、最高裁判所大法廷の合憲の憲法判断を得られるものでない、と思った。違憲判決必至、である。

それで、思い悩んだ末、手順を経て、私は、選挙制度についての自民党の最高責任者でおられた
当時の自民党選挙制度調査会長の竹下登先生に直訴した。 
竹下先生は、私がご説明申し上げる過去の最高裁判所大法廷の合憲・違憲の判決の内容と
将来の最高裁判所大法廷の憲法判断の在り方等々、を黙って聞いておられた。
そして、最後に、若干の質問をされた後に、「判った」と一言おっしゃった。
私は、瞬間、竹下登先生が田中角栄元首相をご説得してくださる、と思った。

数日後、参議院の担当責任者議員から参議院法制局長に対して指示があり、 「参議院選挙は『二票制』で立法作業を」と、原状回復した。 現在の二票制である。

これで、拘束名簿式比例代表選挙制度が、『投票方法』が原因で最高裁判所大法廷の憲法違反の違憲判決を受けることから免れた訳である。
今でも、私は竹下登先生に深く深く有り難く有り難く感謝している次第である。

20年11月支部総会にて、思い出話に花が・・




この人この道」これまでのバックナンバー 

・高13期 朽名桐世氏〜神秘的な輝きを放つ織物の宝石〜(PDF)
・高4期 播磨益夫氏〜元参議院法制局第3部長、現東京リーガルマインド大学特任教授 弁護士〜




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