旧制八尾中学・府立八尾高等学校同窓会東京支部

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 追悼 〜西田奎一先生の思い出〜 


高17期 上柴はじめ氏(音楽家)

八尾高校の名音楽教師だった西田奎一先生が、今年2009年の5月8日にお亡くなりになりました。

私は、プロの音楽家(作編曲家・ピアニスト)として、現在東京で活動しておりますが、西田先生との出会いがなければ、恐らく違う人生を歩んでいたのではないか、と思われます。

今回は、それほどまでに私の人生に大きな影響を与えて下さった西田先生についてお話ししたいと思います。


音楽好きでハーモニカの名手だった父のもと、小さい頃からハーモニカに親しみ、音楽会に出かけたりレコードを聞いたりしていた私は、八尾高校入学後、芸術選択で迷うことなく音楽を選びました。

そこには今までに経験した事のない展開が待ち受けていたのです。
それまで音楽のレッスンと言えば、発声練習をしたり楽器の練習をしたり、という事が普通だったのですが、何と、西田先生は生徒に作曲をさせたのです!

音楽室の壁には上級生たちが提出した作品の上位何作かがそれぞれ点数をつけて貼り出してありました。私にとっては作曲なんて言うのは生まれて初めての事でしたから戸惑いながらも一生懸命に作曲しました。

音楽の教科書に載っていたドボルザークの新世界の「家路」の歌詞に自分で曲を作りなさいという課題だったと思います。それを提出して、さて何点がつけられるかなあ?とドキドキしていましたが、数日後、音楽教室の壁に何と八尾高校初の「百点満点!」として貼り出されたのです。

その時、目の前に光が輝いた事はずうっと忘れられません。
私の世界が変わりました。
私はすっかりその気になってしまい、一生の仕事にするならば、という条件つきで、貧乏長屋の両親に無理を言って、ヤマハの一番安いピアノを買ってもらいました。 今でもそばにいます。

それから、私は、個人的に西田先生にピアノを習い始めました。
南海高野線の住吉東という駅前にある、先生のレッスン教室に、東大阪市金岡の弥刀の長屋から、自転車の荷台にピアノの練習曲集をくくりつけて通う生活が始まったのです。


西田先生のレッスンは素敵なものでした。
ピアノの練習といっても、指使いがどうとか、テクニックがどうとかではなくて、練習曲でさえも、その曲の作りや感動的な部分を、何故そうなるかを嬉しそうに解説して下さいました。
今までに全く体験した事がない、それこそ目から鱗のレッスンでした。

ああそうか、だからここは良い音がするのだ!と、本当に音を楽しみながら演奏する姿勢が、この時身につきました。

今でもその姿勢は全く変わっておりません。
いつも、出る音を楽しみながら演奏しています。
    〜先生のお稽古部屋の前で〜

その時代に先生から教わった音楽の感動をずうっと心の底に持ち続けてここまでやって来ましたが、音楽は技術ではない感動だ!という信念はこの時に確立されました。
自分の技術をひけらかすのではなく、人々に感動を与える為に最大限の努力と時間を費やす!という信念です。

大阪教育大学の特設音楽課程の作曲科に進んだ私は、卒業作品で小川未明の「月夜とめがね」という童話を組曲にして発表しました。
音楽大学の作曲科の学生というものは、ともすれば先進的な作曲技法に取り組んだりしがちですが、私はあくまでも普通の心地よい音楽を極めたいと思っていましたから、童話の組曲を発表したのです。

西田先生は、非常にロマンチストで美しい物が大好きで、お父様が高名な日本画家でいらっしゃったこともあって、ご自身も西田陽一という筆名で絵をお描きになっていました。

クラシック音楽一辺倒ではなく、良いものはジャンルを問わず良い!という素晴らしい価値観の持ち主でした。

のちに、ジャズ・ポピュラー音楽の世界にその活動を拡げていった私のルーツはそこにありました。

私は、講習会などでよく言うのですが、音楽には、良い音楽と悪い音楽の2種類しかない!と。
感動のあるのが良い音楽で、感動のないのが悪い音楽だ!と。

まさに西田イズムです。

また、西田先生はどちらかというと、口下手で、余計なことはおっしゃらないタイプでした。

媚びない、威張らない、という一流の音楽家でした。
ご自身もたくさんの作曲を残されました。
いずれもロマンティックな素敵な曲ばかりです。
こんな素敵な音楽の先生が八尾高校にはいらっしゃったのです。
〜たくさんの生徒が影響を受けた西田先生〜


私は八尾高校では、柔道部に所属しておりました。
八尾高校の思い出は音楽以外では柔道一色です。

第二体育館の96畳の柔道場でのキツかった夏合宿、
その合宿中の夜中にこっそりと抜け出して音楽室に忍び込み、
ピアノを弾いた思い出も私の宝物です。

東京に住んで33年余り。
現在はNHK・BSU「魅惑のスタンダード・ポップス」にレギュラー出演して編曲とピアノを担当中。
また、「名曲アルバム」、「みんなの童謡」、「夢コンサート」、その他、NHKの音楽番組を数多く担当しています。

「みんなの童謡」では、今までに2回、八尾高校34期のアニメ歌手「山野さと子」さんと共演しています。
同期の大月みやこさんのレコーディングにもずいぶん参加しました。

仕事関係では、いろいろと楽しい話がたくさんありますが、またの機会にさせていただきたいと思います。

〜柔道部所属時代〜

まずは、西田奎一先生のご冥福を、心からの感謝と共に、お祈りしたいと思います。






*高14期 中川昭治氏による『 スペイン巡礼 その4 』は次回掲載予定です*





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